13話 面接官たちの青ざめ
13話 面接官たちの青ざめ
学院での最初の朝は、カルドの村よりもずっと騒がしかった。
寮の部屋——六畳ほどの個室——の窓からは、中庭で教科書を広げる学生たちの声が聞こえる。制服の擦れる音、誰かを呼ぶ大きな声、時折混じる笑い声。納屋の梁に吊るした玉ねぎの匂いで目を覚ます代わりに、廊下から漂うのはインクと古い紙と——かすかに焦げた魔法薬の匂い。三年ぶりの「学生」の朝だった。
(——ベッドがある。それだけで、贅沢だな)
藁の上で三年寝てきた俺には、木枠の簡素なベッドでさえ十分すぎるほどだった。それに、窓がある。納屋には窓がなかったから、朝日で目が覚めるのは新鮮だった。
俺は学院から支給されたばかりの制服に袖を通した。白いシャツに紺色の上着、胸ポケットには金色の糸で学院の紋章が刺繍されている。新品の布は硬くて、まだ体に馴染んでいない。何より——麻の農作業着しか着ていなかった三年の後では、この服は奇妙なほど肩がこる気がした。肩幅は確かに農作業で広がったからぴったりなのに、袖口のあたりだけが、どうにも落ち着かない。
鏡に映った自分の姿を見て、少しだけ笑った。碧い瞳だけは三年前と変わらないが、日焼けした肌と硬い手と——この制服の組み合わせは、なんともちぐはぐだった。
(——まあ、いい。これが今の俺だ)
袖をまくり上げて手のひらを見る。分厚いタコ。土の染み込んだ爪。この手で、今日からペンを握るのだ。
教室に向かう廊下で、噂はすでに始まっていた。
「——知ってるか、ヴァンデルトだってよ。あの、才能ゼロで有名な」
「伯爵家の三男だろ? 追放されたはずじゃ」
「なんで今さら学院に。しかもあの格好——農民みたいな顔してるぜ」
俺が歩くたびに、ひそひそ話が波のように広がっては、次の学年の集団に伝染していく。好奇の目、値踏みする目、からかう目——そのどれもが、俺の背中に突き刺さった。半分は純粋な興味だろう。貴族の三男が追放され、三年後に農民のような姿で戻ってきた——噂話の材料としては十分すぎる。残りの半分は——自分より立場の弱い者を見つけて優越感に浸りたいだけの目だった。
(——予想通り、だな)
噂が広がることは覚悟していた。むしろ、真実を知っている者からすれば滑稽ですらある。学院長が口止めをしたせいで、俺がなぜ入学できたかは誰にも知らされていない。だからこそ、みんな好き勝手な憶測を飛ばしている——「裏口入学」「親の金」「たまたま試験が簡単だった」——。
教室の扉を開けると、中にいた学生たちの話し声が、ぴたりと止まった。
一年生の教室——十四歳から十五歳の少年少女が三十人ほど。平民も貴族も混ざったクラスで、貴族の子弟は窓側の前列を占領し、平民の学生は後ろの方に固まっている。教室に入った瞬間、全員の視線が一斉に俺に集中した。三十人分の沈黙は、想像以上に重い。
(——さて、と)
タイミングよく入ってきた教師が座席表を読み上げる中、俺は教室の後ろの方にある窓際の空席に腰を下ろした。鞄から新しいノートとペンを取り出す。三年ぶりに手にする学用品が、やけに軽く感じられた。鍬に比べれば、ペンは羽のような重さだ。
隣の席の男子が、こっそりと俺の手元を覗き込んできた。タコだらけの手だ。彼は何か言いたげだったが、結局口を閉じた。
「——おい、てめえ」
だが、教室がずっと静かなままでは済まなかった。
声の主は、教室の中央で数人の取り巻きに囲まれている貴族の少年だった。金髪をオールバックに撫でつけ、制服の上からでもわかる高価な銀の腕時計をわざとらしく見せびらかしている。胸には火属性の才能を示す赤いピンバッジ——おそらくB級以上、もしかするとA級の実力者かもしれない。顔立ちは整っているが、目つきがすべてを台無しにしていた。自分より弱い者を探しては、優越感に浸る。典型的な——貴族の子弟にありがちな、小物。
「ヴァンデルトってのは、てめえか」
教室中に聞こえるような大きな声だった。取り巻きたちが、くすくすと笑う。
「才能ゼロで有名だった伯爵家の三男——それがなんでここにいる。三年も経って、今さら」
俺はペンを置いて、ゆっくりと彼の顔を見た。十五か十六。肩書きと権力に守られて育ってきたのが、一目でわかる顔つきだった。こういう手合いは、反論すればするほど面白がる。無視すれば——それもまた挑発と受け取る。つまり、どちらに転んでも相手の思う壺なのだ。
「そうだが」
だから——短く答えるだけにした。
「はっ。開き直りかよ」金髪の少年は声をさらに大きくした。「才能ゼロがなぜ学院にいる。親の金か? それとも——お前、なんか裏口でも使ったのか?」
教室のあちこちで、押し殺した笑い声が漏れる。平民の学生たちは気まずそうに視線を逸らしている。彼らにしてみれば、貴族同士のいざこざに巻き込まれるのは避けたいのだろう。同じ貴族の学生たちも、どう反応すべきか測りかねている——ヴァンデルト家は今も有力な伯爵家で、下手に敵に回すのは得策ではない。
(——三年の忍耐が、こんなところで役に立つとはな)
正直なところ——少しだけ腹は立った。でも、それだけだ。三年間、村人たちから好奇と警戒の目を向けられ続けた。作物が異常に育つたびに、井戸の水が戻るたびに、噂は広がり、陰口は絶えなかった。その中で俺は——ただ黙って鍬を振り続けた。言い訳をせず、反論もせず、ただ結果だけを積み重ねてきた。
雨の夜に一人で泣き崩れ、土にすがって生き延びてきた三年の重みに比べれば——こんな教室の嘲弄など、風が吹いた程度にしか感じなかった。
「才能は——なかった。三年前まではな」
その言葉に、教室の空気がわずかに変わった。笑い声が消え、数人が顔を上げる。
「だが、今はここにいる。学院長の裁定で入学が認められた。それだけだ。それ以上は——聞くな」
無属性のことは、まだ言えない。学院長の命令だ。だから、これが今の俺に言えるすべてだった。
金髪の少年は一瞬だけ言葉に詰まったが、すぐに鼻で笑ってみせた。
「ふん。まあいい。どうせすぐに化けの皮が剥がれるさ」
そう言い捨てて、取り巻きと顔を見合わせ、つまらなそうに席に戻った。
教室に静けさが戻った時——斜め前の席の少女が、そっと振り返った。薄い茶色の髪を後ろで結んだ、あの待合室で話した薬草園の娘だ。
「……同じクラスだったんだ」
彼女が小さく微笑んだ。薬草で染まった指先が、机上のノートを軽く叩いている。
「あの時は——ありがとう。励ましてくれて」
「いや。俺の方こそ」
それだけで、教室の空気が少しだけ軽くなった気がした。少なくとも——このクラスに、一人だけ味方がいる。
午後の最初の授業は、魔法理論の基礎だった。
担当は——レナード教授。学院長が「レナード教授が適任」と言ったのだから、当然の人事だった。教授は相変わらずの様子で教壇に立ち、白衣のポケットからはみ出した紙束が今にも落ちそうで——実際、講義の途中で三回ほど床に散らばった——ことをまったく気にせず、熱のこもった声で講義を始めた。
「——魔法の本質とは何か。諸君はまず、ここから考えねばならん」
教授はチョークを握り、黒板に円を四つ描いた。
「一般的に知られている魔力の循環理論では、体内で生成された魔力は、火・水・風・土の四つの属性に分かれて外界に作用する。これが標準モデルだ。しかし——」
教授はチョークで四つの円の中央に、もう一つ小さな円を描いた。ぐりぐりと、念を押すように。
「わしは三十年、こう考えてきた。この四つの属性が分化する前——すべての根源には、一つの『未分化の力』が存在したのではないか。それをわしは『無属性』と呼んでいる」
隣の席の男子が、小さくあくびをした。大多数の学生にとっては、教授の持論に過ぎない。三十年来の妄言をまた始めた——そう思っている顔が、教室内のあちこちに見られた。
でも——俺には違った。
(——土が肥える。鉱石が結晶になる。水が呼び戻される。すべては同じ一つの力の、異なる作用だった)
教授の言葉が、三年間の観察記録とぴったりと重なっていく。俺が畑で、納屋で、井戸の底で見てきた現象のすべて——それらは「別々の異常」ではなく、「一つの根源的な力」の異なる現れ方だった。それが今、黒板の上で「無属性」という名前と理論に結晶化している。
授業の後、片付けをしていると、教授がそっと俺の机に折りたたんだメモを置いていった。
「放課後、研究室に来なさい。あの本棚の奥に、君に見せるべきものが山ほどある」
どうやら教授は、一時間の講義では到底足りないらしい。
日が暮れて、俺は寮の自室に戻った。早朝から夕方まで、初めての学院生活は思った以上に疲れた。慣れない制服——首元がきつい。好奇の視線。朝の嘲弄。そして——三年ぶりに使った頭の疲労。筋肉痛とは違う種類の疲れが、肩との間にどっしりと溜まっている。
制服を脱ごうとして——机の上に置かれた小さな包みに気づいた。
麻の布で包まれ、麻紐でぎゅっと縛られた小包。その結び方に見覚えがあった。輪にしてぎゅっと引き締める——ガルドがいつも、収穫した野菜を束ねる時のやり方だ。
(——まさか)
紐を解いた。布を広げた。
中から出てきたのは——一本の麦の穂だった。
黄金色に実った、ずっしりと重い穂。一粒一粒がぱんぱんに膨らんで、茎はまっすぐに伸びている。手のひらに乗せると、かすかに乾いた草の匂いが立ち昇った。刈り取ってからだいぶ経っているはずなのに、まるでついさっき畑から抜いてきたかのように瑞々しい。
カルドの畑で——俺が自分の手で温めた種から育てて、ガルドと二人で黙って刈り取った、あの秋の麦。
小包の中には手紙はなかった。でも——いらなかった。「元気か」とも「頑張れ」とも書かれていない。ただ、麦の穂が一本。それだけで——ガルドの言いたいことは全部わかった。
(——お前の畑は、ちゃんとここにあるぞ。いつでも帰ってこい)
窓辺に立ち、麦の穂を夕日に透かして眺めた。黄金色の穂が、茜色の光を受けて燃えるように輝いている。王都の喧騒——馬車の車輪の音、商人の怒鳴り声、どこかの窓から漏れる楽器の音——そのすべての向こうに、この穂は確かに、カルドの静かな谷間を繋いでくれている。
初めて学院に来た日、王都の城壁を見て思った。ここに「帰ってきた」わけじゃない。初めて「来た」のだと。でも——今は違う。ここにもまた、俺はちゃんと「いる」。ガルドがいる場所とは違う場所で、違うことを学び、違う誰かと出会いながら——それでも、俺の足で立っている。
(——俺はここで、やっていける。きっと)
麦の穂をそっと机の上に置き、俺はその夜——カルドの納屋にいた頃より少しだけ遅く、深い眠りについた。
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