第8章 新たな恋の始まり「幼馴染と転入生、俺を巡る学園ラブコメ戦争」
第8章 新たな恋の始まり「幼馴染と転入生、俺を巡る学園ラブコメ戦争」
春の朝日が校舎の窓に差し込む中、俺はいつもの通学路を歩いていた。
桜の花びらが舞い散る季節。風に乗って甘い香りが鼻腔をくすぐる。そんな穏やかな朝に、胸の奥は騒々しく鼓動していた。
昨日の夜。スマートフォンに届いた三つのメッセージ。
葵の「明日、話したいことがあるの」。
莉奈の「放課後、一緒に帰ろうね」。
そして小雪の「お大事に、です」——。
(答えはまだ出ない。でも、逃げないって決めたんだ)
胸に手を当てて、心臓の鼓動を確かめる。まだ、ドキドキしている。誰を選ぶか、決めていない。でも、もう逃げたりはしない。
教室の扉を開けると、いつもの騒がしさが俺を迎えた。
「おー、悠斗! 遅いぞ!」
健太が手を振ってくる。俺が席に着くと、すぐに隣に顔を寄せてきた。
「なあなあ、聞いたか? 噂が流れてるぞ」
「……噂?」
「お前、屋上でなんかやらかしたんだろ? 葵さんと莉奈が同時に屋上行ったって話、もうクラス中で囁かれてるぜ」
(うわ、マジかよ……)
俺は顔を覆った。やっぱり、あの場面は見られていたのか。
「てかお前、どっちと付き合うんだよ? 俺もう賭けに参加してんだけど」
「……賭けてんのかよ」
「当たり前だろ。学園二大美少女を相手にした三角関係だぜ? こんなスペクタクル、めったに見れねえよ」
健太がニヤニヤしながら肩を叩いてきた。そんなやり取りを横目に、俺は教室の中を見渡す。
——そこにいた。
窓際の席で、朝日を浴びて教科書を読んでいる葵。時折こっちに視線を送ってきては、すぐに目を逸らす。耳が真っ赤になっているのが、遠くからでもわかる。
隣の席で、何気なく髪をかきあげている莉奈。俺と目が合うと、小さく微笑んで、親指を立てて見せた。あの仕草に、胸が締め付けられる。
そして——教室の後ろの方。図書委員の千早が、静かにこっちを見ていた。目が合うと、小さく首を傾げて、どこか意味深な笑みを浮かべる。あの眼差しは、いつも通り観察者のそれだ。
(……やばいな、これ)
さらに、廊下の窓際。小雪が、保健室のカーテン越しにこっちを見ているのが見えた。気づいた瞬間、慌ててカーテンを閉めた。でも、すぐにまた少しだけ開けて、こっちを窺っている。
四人の視線が、同時に俺に向けられている。それぞれが、それぞれの想いを抱えて。
「……答えはまだ出ない。でも、今日からは——逃げないって、決めたんだ」
俺は小さく呟いた。それが、今の俺にできることだった。
***
昼休みのチャイムが鳴り、教室がざわつき始めた。
「悠斗」
窓際から、葵が立ち上がってこっちに歩いてきた。周りの視線が一斉に集まる。空気が一瞬で張り詰める。
「屋上、来て」
短く言い放って、葵は教室を出ていった。俺はため息をついて、後を追った。
屋上の扉を開けると、春風が頬を撫でた。桜の花びらが舞い、甘い香りが漂う。葵はフェンスに寄りかかって、遠くの空を見ていた。あの背中は、いつもの勝ち気な姿勢とは違って、少し小さく見えた。
「……来たわね」
「葵」
「昨日の夜、メッセージ見た?」
「ああ」
「……どう思った?」
葵が振り向いた。普段の強気な表情とは違う、どこか儚げな目で。風が彼女の髪を揺らす。
「葵」
俺は一歩踏み出した。
「俺は——全員の気持ちを、ちゃんと向き合いたい」
「……は?」
葵が目を見開いた。
「全員って……莉奈だけじゃなくて?」
「ああ。葵も、莉奈も、千早も、小雪も。四人全員の気持ちに、ちゃんと向き合いたいんだ」
一瞬の沈黙。葵が呆然とした表情で、ぽつりと呟いた。
「……バカ。それ、一番残酷なこと言ってるの気づいてる?」
「……わかってる」
「一人に絞れないってことでしょ? それって、結局誰も選ばないってことじゃない」
「違う」
俺は首を振った。
「誰か一人に決めるまで、時間がかかるかもしれない。でも、逃げたりはしない。全員の気持ちを、ちゃんと受け止める。それが……今の俺の答えだ」
葵はしばらく黙っていた。風が二人の間を通り過ぎる。桜の花びらが、彼女の肩にひとつ、舞い落ちた。
そして——。
「……ふふっ」
小さく笑った。
「なんだよ」
「いや、なんか……らしいわね。あんたらしいって言うか」
葵がフェンスから離れて、俺の前に立った。少し背伸びをするようにして、目を合わせてくる。あの瞳には、いつもの強気さが戻りつつあった。
「わかった。待ってる」
「……え?」
「決めたら、ちゃんと告ってよね。……私に、一番最初に」
最後の言葉は、ほとんど聞き取れないくらい小さな声だった。でも、確かに聞こえた。
「葵……」
「ほ、本気だからね! 適当に流したら承知しないわよ!」
顔を真っ赤にして、葵は屋上を走り去っていった。風に乗って、桜の花びらが舞い散る。
(……本当に、バカなやつだな、俺は)
でも、胸の奥が温かくなるのを感じた。
***
放課後のチャイムが鳴り、教室が解放される気配を見せ始めた。
「ユウト」
莉奈が俺の席にやってきた。スマートフォンを手に、いつもの明るい笑顔を浮かべている。でも、その目の奥には、どこか切なげな色があった。
「今日、一緒に帰らない? 話したいことがあるの」
「ああ」
二人で校門を出ると、夕暮れの通学路が広がっていた。春の空気が、少しだけ湿っぽい。夕日が校舎の影を長く伸ばしている。
「ユウトは、決めたの?」
「……まだ、誰を選ぶかは」
「そう」
莉奈は少しだけ目を伏せた。でも、すぐに顔を上げて、笑顔を作った。あの笑顔は、俺を安心させるために作られたものだって、わかる。
「でも、動いてくれたよね。屋上で」
「ああ」
「私、信じてるから。ユウトが、自分から動いてくれるって」
莉奈が小さく息を吸った。夕日が、彼女の横顔を黄金色に染める。
「……実はね、怖かったの」
「え?」
「日本に来て、ユウトに会って。昔のユウトとは違うなって思って。でも、優しいところは変わってなくて。それで……余計に、怖くなった」
莉奈が歩きながら、遠くの夕日を見つめた。
「私、帰る場所がなくなったらどうしようって。ユウトが私を忘れたらどうしようって」
「莉奈……」
「でも、昨日のユウトを見て、安心したんだ。ユウトは、逃げなかった。私たちの気持ちに、ちゃんと向き合ってくれた」
莉奈が立ち止まって、振り向いた。夕日が、彼女の髪を黄金色に染めている。瞳に光が宿っている。
「私、日本に来てよかった。……ユウトに出会えて、本当によかった」
その言葉に、俺の胸が締め付けられた。
「……ありがとうな」
「ううん。私こそ、ありがとう」
莉奈が、はにかんだ笑顔を見せた。
「決まったら、教えてね。私、待ってるから」
***
莉奈と別れた後、俺は一人で校舎に戻った。
図書室の前を通りかかると、中から人の気配がした。覗いてみると、千早が本棚の前に立っていた。夕日が窓から差し込んで、埃が舞っている。静かな空間に、ページをめくる音だけが響く。
「……佐藤さん」
千早がこっちに気づいて、小さく手を振った。
「千早」
「入ってもいいですか?」
「どうぞ」
図書室に入ると、夕日が窓から差し込んで、埃が舞っているのが見えた。千早は静かに本を閉じて、こっちに向き直った。
「佐藤さん。少し、話したいことがあるんです」
「……なんだ?」
千早が一歩踏み出した。
「最初……あなたを試そうとしてました」
「試す?」
「葵さんと莉奈さんの間で、あなたがどう動くのか。私、観察するのが好きなんです。人の関係を、人の想いを」
千早が小さく笑った。あの笑みは、自分を少しからかっているようにも見えた。
「でも、観察しているうちに……自分が、巻き込まれてしまいました」
「……千早」
「公平じゃないですよね。観察者の立場だったはずなのに」
千早が目を伏せた。夕日が、彼女の長い睫毛に影を落とす。
「でも、私も……まだ、諦めてません。葵さんも莉奈さんも、素敵な人たちです。でも、私にも……チャンスがあっていいはずです」
千早が顔を上げて、まっすぐに見つめてきた。あの眼差しは、観察者のそれではなく、当事者のものだった。
「公平にしてくださいね。私の気持ちも、ちゃんと見てください」
その言葉は、図書室の静寂に響いた。
「……わかった」
俺は頷いた。
「ありがとうございます」
千早が、珍しく明るく微笑んだ。
***
千早と別れて、俺は階段を降りた。
保健室の前を通りかかると、ドアが少し開いていることに気づいた。中から、誰かの気配がする。甘い薬の香りが漂ってくる。
「……小雪?」
ドアを開けると、小雪が窓際に立っていた。手には、小さなドライフラワーの花束を持っている。夕日が、花束を柔らかく照らしている。
「あ……佐藤、さん」
小雪が驚いたように振り向いた。顔が、真っ赤になっている。
「どうしたんだ? もう下校の時間だぞ」
「わ、わかってます。……待ってたんです。佐藤さんが来るのを」
「俺を?」
小雪が小さく頷いた。そして、震える手でドライフラワーを差し出した。
「こ、これ……作ったんです。ドライフラワー。下手くそで、すみません」
「いや、すごく綺麗だよ」
「ほ、本当ですか?」
小雪の目が、一瞬だけ輝いた。
「あ、あの……!」
小雪が深呼吸をした。胸に手を当てて、大きく息を吸う。肩が小さく震えている。
「佐藤さんのこと……好き、です」
——。
「ずっと、前から。見て、ました。保健室から」
小雪の声は震えていた。でも、目はまっすぐに俺を見ていた。
「佐藤さんが怪我をした時も、具合が悪そうな時も、いつも……いつも、見てました。でも、声をかける勇気が出なくて。だから、今日は……今日は、伝えたいって思って」
涙が、小雪の目に溜まっている。
「……変ですよね。私みたいな子が。でも、でも!」
「小雪」
俺は優しく呼びかけた。
「ありがとう。ちゃんと、伝わったよ」
「……え?」
「小雪の気持ち、ちゃんと受け取った。……ありがとうな」
小雪が、ぽろぽろと涙をこぼした。
「……う、嬉しい、です」
「泣くなよ」
「だって……!」
小雪が涙を拭って、笑顔を作った。あの笑顔は、涙と混ざって、とても綺麗だった。
「佐藤さんに、伝えられて……本当に、嬉しくて」
俺は、小雪の頭を優しく撫でた。
「……決めたら、教えてください。待ってますから」
「ああ」
***
夕暮れの屋上。フェンス越しに、オレンジ色の空が広がっていた。
俺が屋上に上がると、そこには——四人の少女が立っていた。
葵が、腕を組んでこっちを見ている。莉奈が、明るく手を振っている。千早が、静かに微笑んでいる。小雪が、少し後ろで、控えめに佇んでいる。
四人の視線が、俺に集まる。それぞれが、それぞれの想いを抱えて。
俺は、屋上の中央に立った。
「……話がある」
深呼吸をする。春風が頬を撫でる。
「まだ、誰を選ぶか、決めてない。それは、嘘じゃない」
四人の表情が、それぞれに揺れた。
「でも、決めたことがある」
俺は、一つずつ顔を見た。葵を、莉奈を、千早を、小雪を。
「俺は……もう逃げない。四人全員の気持ちに、ちゃんと向き合う。それが……俺の答えだ」
一瞬の沈黙。
「……バカ」
葵が小さく呟いた。
「それじゃあ、結局——」
「ああ。まだ、誰か一人に絞れてない。でも、絞るまでの間も、ちゃんと向き合いたいんだ。全員の気持ちを、大切にしたい」
「……ユウト」
莉奈が、感動したような目で見つめてきた。
「公平、ですね」
千早が、意味深に微笑んだ。
「……わかりました」
小雪が、小さく頷いた。
「待つわ」
葵が言った。
「私も」
莉奈が言った。
「私も、です」
千早が言った。
「私、も……」
小雪が、震える声で言った。
俺は、四人の少女を見渡した。
「……ありがとうな」
その瞬間——。
「ふふっ……いい雰囲気ね」
屋上の扉の方から、声がした。
全員が振り向くと、そこには——美咲が立っていた。
「美咲……先生?」
「呼び方、直しなさいな。まだ生徒じゃないんだから」
美咲が、妖艶な笑みを浮かべて歩いてきた。
「あなたの戦いは……まだ終わらないわよ」
「……どういうことだ?」
美咲が、俺の耳元に顔を寄せた。甘い香水の香りが漂う。
「明日、新しい転校生が来るの。とっても、とっても……興味深い子がね」
「……は?」
「楽しみにしてなさい。——あなたの物語は、まだ始まったばかりだから」
美咲が、意味深に笑って、屋上を去っていった。
四人の少女が、互いに顔を見合わせる。
「……なんなの、あの人」
葵が眉をひそめた。
「転校生……?」
莉奈が不思議そうに首を傾げた。
「興味深い、ですか」
千早が、考え込むように呟いた。
「……どうなるんですかね」
小雪が、不安そうに目を伏せた。
俺は、夕暮れの空を見上げた。
(……まだ、終わらないのか)
でも、不思議と、怖くはなかった。
***
夜。
俺は自室のベッドに腰掛けて、一日を振り返っていた。
葵との屋上。莉奈との帰り道。千早との図書室。小雪との保健室。そして、四人が集まった屋上での宣言。
(……本当に、バカなやつだよな、俺は)
誰か一人に決められないで、みんなを待たせるなんて。最悪の男じゃないか。
でも、四人全員が「待つ」って言ってくれた。
その優しさに、胸が温かくなる。
スマートフォンを手に取る。四人からのメッセージが、それぞれ届いていた。
葵からの「早く決めなさいよ」
莉奈からの「焦らなくていいからね」
千早からの「公平でいてください」
小雪からの「いつまでも、待ってます」
——そして。
知らない番号からのメッセージが、一件届いていた。
開いてみると、そこには——。
『明日、会いましょう。——第五の挑戦者より』
俺は、スマートフォンを見つめた。
(第五の挑戦者……?)
美咲の言葉が、頭の中で蘇る。
「新しい転校生が来るの。とっても、とっても……興味深い子がね」
窓の外では、春の夜風が吹いていた。
遠くで、誰かの笑い声が聞こえた気がした。
物語は、まだ終わらない。
いや——終わらせない。
俺は、スマートフォンを握り締めた。
新しい恋の予感が、胸の奥で膨らんでいく。
(明日、何が待ってるんだろう)
その問いに答えは出ない。
でも、もう逃げない。
どんな展開が待っていても、ちゃんと向き合う。
それが——俺の答えだ。
***
春の夜風が、カーテンを揺らす。
新しい朝が、きっと来る。
そして、新しい恋が——始まる。
Enter any idea,
and AI completes the work in one click