1話 絶望の淵でシステム覚醒 「デブから国民アイドルへ:システムで最強スター誕生」
1話 絶望の淵でシステム覚醒 「デブから国民アイドルへ:システムで最強スター誕生」
俺はトイレの個室で昼食を摂っていた。
弁当箱を膝の上に置き、小さく口を動かす。咀嚼音を極限まで抑え、呼吸すら浅く浅く。外の廊下を通り過ぎる足音に、毎回背筋が凍る。
(また来た……)
笑い声が近づいてくる。何人かの女子生徒の声だ。美咲の声が混じっているのを、俺はすぐに察知した。
「ねえ、今日のお昼どうする? またあの子見つけて遊ぼうよ」
「あはは、絶対またどっか隠れてるって。デブは隠れる場所が多いからね」
「探すの面倒くさいんだけど~。でもまあ、暇つぶしにはなるかな」
足音が遠ざかっていく。俺は凍りついた体をようやく緩め、冷めたおにぎりを喉に詰め込んだ。
俺の名前は小百合。高校二年生。十七歳。
そして、クラスで一番太っていて、一番いじめられている。
体重は七十八キロ。身長は百五十八センチ。BMIは三十一を超えている。医者からは「肥満度2」と診断された。
でも、俺は歌が好きだ。
ダンスも好きだ。
ステージに立つことを夢見て、毎日鏡の前で練習している。誰にも見られないように、部屋のドアに鍵をかけて。
(いつか……いつか絶対……)
そんな夢を抱きながら、現実はこんなトイレの個室で冷めたご飯を食べている。
悲しい。滑稽だ。でも、これが俺の日常だった。
午後の授業が終わり、俺はいつものように教室を後にした。帰り道、人気のない裏庭を通る。表通りを歩くと、誰かに見られる。見られると、何か言われる。
「デブ」
「気持ち悪い」
「あいつなんであんなに太ってんの?」
そんな言葉が、毎日のように耳に入ってくる。
今日は比較的平穏な日だった。いじめは激しくなかった。ただ、美咲がSNSに俺の写真をアップして、クラスのグループLINEで笑いのネタにされたくらいだ。
スマホを開くと、通知が数十件溜まっている。
「うわ、マジでデブ」
「あの体型、どうやったらなれるんだよ」
「毎日何食ってんだろ」
「見てるだけで気持ち悪い」
涙が零れた。画面にぽたぽたと落ちて、指紋認証が何度も失敗する。
(なんで……なんで俺だけ……)
俺は悪いことしてない。誰にも迷惑かけてない。ただ、食べることが好きで、運動が苦手で、痩せられないだけなのに。
それが罪なのか?
家に着くと、部屋に閉じこもった。ベッドに倒れ込み、スマホの画面をぼんやりと見つめる。
通知はまだ増え続けている。
「デブは家で引きこもってろよ」
「外に出るな」
「見るだけで吐き気がする」
指が震えた。ブロックしようとしても、新しいアカウントから次々と通知が来る。美咲の仲間たちが、執拗に攻撃してくる。
(もう……やだ……)
スマホを放り投げた。枕に顔を埋め、声を殺して泣いた。
こんな人生、終わりにしたい。
でも、終わらせる勇気もない。
ただ、こうして毎日を繰り返すしかない。朝起きて、学校へ行って、いじめられて、帰ってきて、泣いて、眠る。
それが俺の、唯一の生き方だった。
泣き疲れて、ぼんやりとスマホを拾い上げた。
画面を見た瞬間、俺は凍りついた。
——そこに、見たこともないアプリのアイコンが表示されていた。
ピンクと金色のグラデーションで彩られた、星のようなマーク。タイトルは「アイドル進化システム」。
(……なにこれ?)
心当たりがない。インストールした覚えもない。しかも、通知バーには謎のメッセージが表示されている。
『アイドル進化システムをインストールしますか? YES / NO』
(ウィルス? それとも……)
迷った。でも、今の俺には失うものなんて何もない。どうせ最悪の人生なんだ。何があっても、これ以上悪くはならない。
震える指で、YESをタップした。
次の瞬間——
ピロリン♪
脳内に、澄んだ電子音が響いた。
『アイドル進化システム、起動しました』
『宿主:小百合(17歳)を認識』
『現在ステータスを表示します』
目の前に、半透明のウィンドウが浮かび上がった。
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名前:小百合
年齢:17歳
身長:158cm
体重:78kg
BMI:31.2(肥満)
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歌唱力:C(潜在値:S)
ダンス力:C(潜在値:S)
表現力:C(潜在値:S)
魅力値:D(潜在値:SS)
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スキル:なし
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(……え?)
俺は目を擦った。幻覚かと思った。でも、擦っても消えない。ウィンドウは、確かに目の前に浮かんでいる。
『分析結果:宿主は高いポテンシャルを秘めています』
『しかし、現在の身体状態が才能を発揮する妨げとなっています』
『システムは宿主の「アイドルへの進化」を全面的にサポートします』
『第一章のミッションを発行します』
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【第一章:変身の始まり】
ミッション内容:三日間で5kg痩せる
報酬:ボーカルスキルLv.1解放
魅力オーラ(弱)獲得
注意:システム提供の特別トレーニングメニューに従ってください
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(三日間で……五キロ?)
ありえない。普通のダイエットでは、一週間で一キロ減るのが精一杯だ。三日で五キロなんて、物理的に不可能だ。
『通常の方法では不可能です』
『しかし、システムの特別トレーニングメニューであれば可能です』
『実行しますか? YES / NO』
俺は息を呑んだ。
夢を見ているのかもしれない。現実逃避の妄想かもしれない。でも、もし本当なら——もし、本当に変われるのなら。
(やる。絶対にやる)
YESをタップした。
『メニューを生成中……完了』
『明日から、新しいあなたが始まります』
ウィンドウが消えた。
部屋は静寂に包まれた。スマホの画面は、いつものホーム画面に戻っている。
(……夢、だったのかな)
そう思った瞬間、脳内に声が響いた。
『明日の朝六時、起床してください』
『トレーニングは、朝のジョギングから始まります』
俺はベッドに座り込んだ。
夢じゃない。本当に、何かが始まろうとしている。
(アイドル……進化、システム……)
信じていいのか。迷う。でも——
スマホの画面に、まだ美咲たちからの罵倒が表示されている。
「デブ」
「気持ち悪い」
「消えろ」
(……変わりたい)
その思いだけは、本物だった。
明日、六時に起きる。
たとえ何の変化もなくても、たとかこれが罠だとしても——
もう一度、だけ。
夢を諦めずに、生きてみよう。
俺はスマホを枕元に置き、布団に潜り込んだ。
初めて、明日への期待を抱きながら、目を閉じた。
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